現在、エアピストル競技で使われている銃をメーカー別に見ると、圧倒的シェア1位はステイヤーになります。最新型がEvo10E/Evo10、その一つ前がLP10E/LP10です。「E」が付くのは電子トリガー(接点が離れることによってソレノイドが作動してシアを叩くもの)で、ついていないのが機械式トリガーという違いがあります。見た目は刻印と、グリップに収納されている電子ユニットの蓋くらいですね。
今年の2月、そのステイヤーのエアピストルに新型が登場するというニュースが発表されました。
新型となる「EVO10E SX」の、従来製品と比べたときの一番の違いは、電子ユニットにあるコネクターに小さい部品を装着することによって、Bluetooth経由でPCやスマホなどと通信し、射撃した時の銃の揺れなどの情報を集積して分析することができるステイヤー専門アプリ「SMARTRIX」に対応しているという点です。
「SCATTみたいなもの?」と思ってしまいそうになりますが、仕組みがかなり異なります。SCATTは銃に固定した小型カメラで標的を常時撮影し、そのデータをPCに送ることで「銃口がいまどこを向いているか」を可視化するものですが、こちらにはカメラはついておらず、3Dジャイロセンサーでもって銃の揺れをデータとして取り出して電子デバイスに情報をおくるものです。
似たような仕組みの外付けデバイスというと、マンティスX(MantisX)というものがあります。価格は廉価版が2~3万円、最上位機種が6~7万円程度と、40万円とかするSCATTに比べれば格段にお手頃価格ということもあり、APSシューターでも使用している人をよく見かけますね。
実は、エアピストルのシェア第2位であるモリーニにも同様の機能を持っている製品があります。最新型のCM200Eは、アプリをダウンロードして通信機能をONにするだけでエアピストルそのものを射撃解析装置として使用可能になります。旧型のCM162Eも、部品を一部交換することで通信機能がONになるとのことです。
今の時代、射撃スポーツをガチで練習しようとするならSCATTはほぼ必須、とはいえSCATTはなんぼなんでも値段が高すぎてそうそう手がでない、機能がある程度は限定されていてもいいからSCATT的なトレーニングができるデバイスはないだろうか……というニーズに応えるための製品として、各社でしのぎを削っているというところなのでしょう。
そういった3Dジャイロセンサーを使ったものがSCATTのようにカメラを使った射撃解析装置とどこが違うかというと、大きな違いとしては「どこを狙っているのかは表示されない」という点です。構えて、狙っているときに銃がどのように揺れて、そしてその揺れのどのあたりで撃発が行われたのか、基本的に表示されるデータはそれだけです。
大きく機能が制限されている、というのは確かにそのとおりなのですが、では実際にSCATTを使ってトレーニングしているときには、どんなデータを重視しているかって言われると、「どこを狙っているか」、言い換えると「照準が10点を通るときに撃発できているかどうか」は実はたいして重要な情報ではなく、むしろあんまりそればっかり気にしちゃいけないデータだったりします。重視するべきは照準の揺れ、それも構え始めてから撃発に至るまでの揺れの変化です。
そして、そのデータを取得するだけならカメラ方式である必要はどこにもなく、3Dジャイロセンサーで揺れだけを取得していればそれで十分なわけです。カメラでなくジャイロセンサーを使うことで価格を数分の1まで圧縮できてお買い得になるというのなら、それは紛れもなく「賢い選択」と言えるものになるはずです。(SCATTはカメラを使っていることにより射撃練習用のデバイスとしてはオーバースペックになってしまっている、とも言えます)
さて、ステイヤーEVO10E SXの射撃解析機能は、どのくらい実用的なものなのでしょうか? ひいては、SCATT「じゃないほう」のジャイロセンサーを使った各社の射撃解析装置は、実際に使っている人からするとどの程度「使えるもの」なのか、逆に「使えない」ものなのかという、けっこう知りたくてたまらない情報について、いつもの射撃スポーツ専門BBSである「TargetTalk」で活発な議論が行われていましたので、抜粋して翻訳してみたいと思います。
引用元:TargetTalk “Steyr EVO10E SX”
従来のEVO10E、およびLP10Eを、オプションパーツとして発売される「SXトリガー&エレクトロニクス」でアップグレードすることができます(LP10Eは新しいグリップも必要です)が、価格が気になります。(アーガス/シドニー・オーストラリア)
ステイヤーの公式チャンネルには、SXに関するビデオが大量に追加されています。
https://www.youtube.com/@STEYRSportwaffen/videos
(KZMNT)
特に評価されているのが、トリガーに与えられるプレッシャーの変化を取得してグラフにして表示する機能ですね。ピストル射撃において一番重要なのがトリガー、次いで照準、そして姿勢は3番目って言われてますが、その一番重要な「トリガーの引き方」を可視化してくれるというのは、それができずに2番目に重要な「照準の揺れ」しか表示できない他社システム(SCATTを含む)よりも、確実に優れている点と言えます。(注:SCATTもオプションパーツの組み込みによりトリガープレッシャーの取得・表示は可能です)
現在、射撃スポーツにおいてトレーニングにつかう解析装置の分野では、ほぼ完全にSCATT一強で、他の選択肢はほぼ「ない」に等しい状態です。以前、ラトビアからSCATTに良く似ているけれど価格がずっとお求めやすくなった製品が発売されたことがありましたが、有志による性能チェックその他もろもろによって、性能的にはSCATTの代替にはまるでなり得ない、見た目だけ補正してそれっぽいデータを表示しているだけのまがい物も同然なシロモノだったことが判明し、多くの人をガッカリさせてしまったこともありました。
ロシアvsラトビアでバトルが勃発【海外の反応】
ロシア vs ラトビアのバトル、続報【海外の反応】
SCATTが優れているのはわかる、でなければこんなに世界中で使われていない、けれどいくらなんでも高すぎる――。これは、おそらく全世界の射撃人の共通の悩みになりつつあるんじゃないかと思います。奥戸射場に最近練習しに来てくださってる方が、銀座銃砲店の夏のセールでSCATTを購入しようとしたところ「一ヶ月待ち」と言われた、って話をしていました。入手は一ヶ月後になるもののセール価格のままで売ってくれるとのことで、それは確かに神対応でありがたい話ですが、それにしてもセールカタログに乗ってる製品買おうとしたら入手が一ヶ月先になるって!
そんなわけで、このステイヤーの新しい試みには期待したいところです。新型のステイヤーEVO10E SXが備えている、また既存製品に組み込むことで追加されるという「SMARTRIX」というアプリの実力はどの程度のものなのか? ――といってもこの手の解析ツールは、射手本人が自分で撃ったデータをみてどうこうというのではなくて(もちろん上級になればそれでもOKですが)、基本的には「コーチ(教える側)が、初級~中級射手の射撃を指導する場合に、大きな手助けになるもの」という性格が強い製品です。実際、EVO10E SXの広報動画も、まずは「ピストルを撃ってる女性の後ろにいる男性(コーチ)が、データを見ながらアドバイスして、そしてその効果がすぐさまに発揮されて女性の技術がみるみる向上する」というような筋立てになっていることからも、これは「射手向けというより、むしろコーチ向け」の製品であるということがわかります。
ということは、データを活用できるもできないも、新機能を使いこなせるも無駄にするも、コーチ次第ということになります。責任重大です!