1日目は勝沼ぶどう郷駅がバスの中心ステーションだったが、2日目は石和温泉駅がその役割を果たす。歩いていける範囲にたくさんのワイナリーが集まっている勝沼地区と違って、甲府・石和エリアはワイナリー同士の距離が遠い。そのため、バスに乗って一つのワイナリーに言って、そこが終わったら次のバスを待ってそれに乗って次のワイナリーに向かう…というのが、基本的な巡回パターンになる。
空模様はあいにくの小雨。ときおり雨は止むけれど晴れ間が覗くことはなく、時にはざっと激しく降ってくることもあるという天候だったが、人出にはあまり大きな影響はなかったようでどのワイナリーに行っても大盛況だった。
モンデ酒造
最初に訪れたのはモンデ酒造。大型バスが次々に乗り付けてくる観光ワイナリーだ。広いスペースの各所に、自分で勝手にコップに注いで飲める「ご自由にお飲みください」な感じの試飲スペースがある。きわめて典型的なおみやげワインメーカーである。
大型バスの駐車場や、わかりやすい案内図。大部屋に置かれたワイン樽と、冷やされた試飲用ワイン。無料試飲で飲めるのは、甘ったるいジュースみたいなワイン風飲料や、「梅ワイン」とかいうワイン苦手な人でも気楽に飲めるジュースめいた飲み物ばかりだ。
ワインカーブの案内も、特に案内人が付くわけでもなく、お仕着せの「工場見学ルート」があって、そこを歩いて通るだけ。作ったまま作りっぱなしの、あんまり出来のよくない、場末の民俗博物館にありがちな出来合いの「展示物」がいくつか置いてあるだけだ。
試飲スペースから外に出るには、佃煮や漬物が並べられた「おみやげ物屋ストリート」を通りぬけなければならない。観光地化された工場見学なんかだとよくあるパターンだ。
とまあ、長々と書いたけれど、つまりは「ありがちな観光地ワイン売り場」でしかない。なんでこんなところにわざわざ来たのかというと……。
実は、面白いワインも作っているのである。普段は完全に観光客向けの「フルーティーで飲みやすいワイン」しか出してないような試飲スペースだが、この日は特別にワインツーリズムの参加者向けに醸造スタッフが解説員として常駐し、普段は出していないワインも試飲用として提供されていた。
この2本が、モンデ酒造の「本気ワイン」の代表選手だ。さすがにツーリズムの日も無料試飲はナシだったが。
特に巨峰スパークリングは、この数週間前に日比谷のヌーボー祭りでも試飲として出ていたものだが、その日は冗談のような大行列になっていて、とても飲めなかったのである。朝イチでこのモンデ酒造を訪れ、「日比谷にも行ったんですが行列がすごかったですね、巨峰スパークリングも飲んでみたかったんですが」とスタッフの人に言ったところ、「ありがとうございます! 今から冷やしますので、30分、いや、20分だけ待っててください!」と、およそ信じられない好対応。他のワインや工場見学ルートを見たりしつつ頃合いを見計らって試飲スペースに戻ると、「おまたせしました! 今から開けますのでこちらにどうぞ!」と、ほとんどVIP扱いである。こちらはもう恐縮するばかり。
そうこうしているうちに、首から緑の札を下げたツーリズム参加者の人たちもぽつぽつ集まってきた。その中の一人である自分が言うのもなんだが、観光バスで来ている「フツーの人たち」とはあきらかにワインを見つめる目つきが違う。試飲をしてはスタッフにやたらと専門的な突っ込んだ質問をするし、それに答えるスタッフも(おそらくはいつもは試飲スペースになんか出てこない)専門の醸造スタッフなので、熱が入った解説が繰り広げられる。最初は人だかりを見て「何があるの~」と寄ってきた一般の観光客の皆さんも、交わされているやり取りのディーブさに引いて離れていく。
ワイン好きだけれど、普段のモンデ酒造の試飲スペースに来て失望して帰ってしまった経験がある人は、次のワインツーリズムではぜひ再訪してみることをおすすめする。「いつものモンデ酒造の試飲」とは全く違う、面白いワインが飲めて面白い話が聞けるスペースが、一年に一度だけそこに出現するのである。
山梨マルスワイナリー
次に訪れた山梨マルスワイナリーも大きめの観光ワイナリーだ。ワインを作る工程を順番に見学できる「工場見学ルート」みたいなのが設置してあり、除梗破砕機や圧搾機、低温貯蔵庫が自由に見学できる。専門の人が案内してくれるわけではないが、見学ルートのところどころにボタンが設置してあって、そのボタンを押すとテープで解説音声が流れる仕組みになっている。なんか、ますます「田舎の民俗博物館」みたいな感じだ。
大型車が何台も停められる駐車場の横に、大規模な工場と試飲コーナーがそびえ立つ山梨マルスワイナリー。
醸造施設の見学には特に案内人が付くわけではないが、要所要所に「解説ボタン」が設置されている。ボタンを押すと一定時間、その場にある施設についての解説音声が流れるというものだ。
醸造部屋やワイン蔵など、けっこう奥のほうまで見学コースに入っている。
だが、ここでも「ワインツーリズム参加者」と「一般の観光客」との差別というか区別が行われていた。ワインツーリズムの参加者だけに地下の特別試飲室が開放され(ツーリズムの名札を付けてないと入れない)、有料試飲が行われていたのである。
地下への案内看板。ツーリズム参加者だけが立ち入ることができる。普段は「特別な顧客」だけが入れるテイスティングルームみたいな場所らしい。
ある意味特別扱いではあるが、けっして優遇されてるわけではない。ツーリズム参加者だけが無料で飲み放題になるというわけじゃなく、「有料試飲」をする「権利」がツーリズム参加者だけに与えられるというわけだ。まあ、わざわざツーリズムに来る人ならば、100~500円の試飲に喜んでお金を出してくれるだろうという目論見があるのだろう。実際、大勢の人が有料試飲をしていた。
こちらは1Fにある観光客向けの無料試飲スペース。地下の限定ワイン有料試飲コーナーは別世界だ。地下の「特別室」での試飲は、同じワイナリーとは思えないくらい雰囲気も、解説の詳しさも、あと当然のことながら試飲をする側の熱心さもまるで違っていた。
次回はワインツーリズム2011・2日目の後半。笛吹ワインとニュー山梨ワイン醸造をお送りする予定。